構造設計アーカイブ

易しくないコンクリート工学

著者 : 名古屋大学名誉教授 工博  島田 静雄 (経歴

掲載誌 : 橋梁&都市 PROJECT

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0. はじめに
 悲しいことに、多くの科学技術は、戦争のときに、味方を守り、敵を殺すことを研究することによって進歩してきました。コンクリート技術も例外ではありません。いまでは殆どの人は知りませんが、大砲の弾も通さない頑丈な人工石材べトン(フランス語)で構築された、小単位の防御陣地をトーチカ(ロシヤ語)と言いました。日露戦争(1904/5)のとき、日本軍をさんざん悩ませたことで、当時は良く知られた言葉でした。べトンはドイツ語でもそのまま使われますが、英語ではコンクリート(concrete)です。大量のコンクリートは、主に軍事目的に利用することを前提とした構造物の建設に使われ、いわゆる民生への利用は後回しになっていました。その一つの転機となったのは、日本では関東大震災(1923)です。日本の近代的な石造構造物の建設は、明治以来、欧米の煉瓦技術を模倣することが主流だったのですが、地震の多い日本の風土には適していないことを、関東大震災によって思い知らされたのです。日本の木造建築の経験は1000年もあり、大工さんは尊敬された職業でした。一般的にコンクリート技術を利用することの歴史は、官学主導型で進められましたので、実質的には未だ100年にも満たないのです。したがって、民間レベルで、経験を積んだ職人が育っていません。また、技術の伝承(technology transfer)もうまく機能していませんので、多くの未経験の問題が見つかるのは当然です。コンクリート技術の常識と思われていたことであっても、あらためて見直してみる必要があります。この「易しくないコンクリート工学」の目的は、コンクリートの強度を生かす構造物の設計方法を解説することです。それには材料としてのコンクリートの性質や、コンクリートを扱う技術についても説明が必要です。コンクリート工学の研究は、未だ100年ちょっとしかありません。「コンクリート構造物は半永久的に持つ」と信頼していたことが、最近では大分怪しくなってきました。そのことに理解をするために、まずはコンクリートの歴史を概観することから始め、それから設計法などの具体的な解説に繋ぎます。
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インターネット版について
 この「易しくないコンクリート工学」は、島田静雄先生から(株)横河技術情報に、本資料のインターネット公開の話を頂き、ここに掲載しているものです。また本資料は、雑誌「橋梁&都市PROJECT」(発行:橋梁編纂委員会)に2007年1月号より連載で掲載されたものです。島田静雄先生および橋梁編纂委員会に対しましては、このような貴重な資料を掲載させて頂きましたことに対しまして、この場をお借りしましてお礼申し上げます。
(記:株式会社横河技術情報)